児童館の広場。カラフルなおもちゃが散らばる中、自分と同じくらいの月齢の赤ちゃんが、ヨチヨチと、でも確実に自分の足で歩いているのを見た瞬間。
あるいは、久しぶりに実家に帰省した際、親戚のおばあちゃんから何気なく放たれた、「あら、〇〇ちゃんはまだハイハイなの? 近所の△△ちゃんはもう歩いたって聞いたわよ」という言葉。
その瞬間、心臓がギュッと強く握られたような感覚になり、胸の奥にドス黒いモヤモヤが広がるのを感じたことはありませんか?
「私の育て方が悪かったのかな……」
「栄養が足りていないのかな」
「もしかして、運動神経が悪いんじゃ……」
「このまま歩かなかったらどうしよう」
笑顔で「そうなんです〜、のんびり屋さんで」と返しながらも、心の中では焦りと不安の嵐が吹き荒れている。
その気持ち、痛いほどよく分かります。
育児書を開けば「1歳前後で歩き始めます」という文字が目に飛び込み、スマホでSNSを開けば「10ヶ月でファーストシューズ買いました!」「1歳のお誕生日に一升餅背負って歩きました!」というキラキラした投稿ばかりが溢れています。
まるで世界中で、自分の子だけが取り残されているような孤独感。
でも、ここで断言させてください。
歩き始めるのが早いことは「偉い」ことでも「優れている」ことでもありません。
そして、遅いことは決して「劣っている」ことではありません。
歩くのが早い子は、好奇心が旺盛な「せっかちさん」。
歩くのが遅い子は、じっくりと考えてから動く「慎重屋さん」。
ただそれだけの、生まれ持った**「性格の違い」であり、素晴らしい「個性」**なのです。
今日は、周囲の無責任な雑音や、無意識にしてしまう「比較」からあなたの心を守り、ゆっくりと、しかし確実に成長している我が子を「誇り」に思えるようになる、魔法の視点をお渡しします。
なぜ「遅い」と感じると、これほどまでに不安になるのか?その正体は「平均値」という呪い
そもそも、なぜ私たちは子どもの成長が少しでも目安から外れると、これほどまでに不安になってしまうのでしょうか。
赤ちゃん自身は、毎日ニコニコと機嫌よく過ごしているのに、ママだけが焦っている。
この不安の正体は、目の前の赤ちゃんではなく、頭の中に刷り込まれた**「平均値」という名の呪い**です。
母子手帳や育児サイトには、必ず「発達の目安」が書かれています。
「○ヶ月で首すわり」「○ヶ月でハイハイ」「1歳でひとり歩き」。
しかし、これらはあくまで何万人ものデータを集めて割り出した、統計上の「平均」に過ぎません。学校のテストの平均点と同じで、全員がそこぴったりに収まるわけではないのです。
実際の発達の幅は、ママたちが想像しているよりもはるかに広く、個人差が大きいものです。
具体的に「歩き始め」の正常な範囲を見てみましょう。
- 歩き始めの目安: 10ヶ月 〜 1歳6ヶ月頃
この数字を見て、何か気づきませんか?
そう、早い子と遅い子の間には、なんと**「8ヶ月」もの差**があるのです。
赤ちゃんの人生における8ヶ月は、とてつもなく長い時間です。
これを大人の人生に置き換えてみてください。
「20歳で就職する人」と「28歳で就職する人」。
8年の差がありますが、どちらも立派な社会人として活躍していれば、就職した年齢なんて誰も気にしませんよね?
「あなたは就職が早かったから偉い」「あなたは遅かったからダメな人間だ」なんて評価は下されません。
赤ちゃんも全く同じです。
10ヶ月で歩き始めたからといって、将来オリンピック選手になる約束がされたわけでも、東大に入ることが決まったわけでもありません。
逆に、1歳半で歩き始めた子が、将来運動音痴になると決まったわけでもありません。
「平均」はあくまで「ふーん、そんなデータもあるんだな」程度の参考資料。
目の前のお子さんが、昨日より今日、少しでも成長していれば、それがその子の「正解」なのです。
「ゆっくりさん」は劣っているのではない。そこに隠された3つの才能
「遅い」という言葉には、どうしてもネガティブな響きがあります。
しかし、視点を「遅い」から「じっくり」に変えてみてください。するとそこには、早歩きの子にはない、素晴らしい才能やメリットが隠されていることに気づくはずです。
ポジティブ変換術を使って、我が子の隠れた才能を紐解いていきましょう。
1. 驚異的な「観察眼」と「分析力」を持つ頭脳派
なかなか歩こうとしないお子さんを、よく観察してみてください。
座ったまま、あるいはハイハイの姿勢のまま、じっと周囲を見渡していませんか?
お友達が走っている様子、大人が動く様子、床の段差、家具の配置。
彼らは決して「ぼーっとしている」のではありません。
小さな頭の中で、高度な情報処理を行っているのです。
「あそこには段差があるな」
「今立ち上がったら、バランスを崩して転ぶリスクがあるな」
「もう少し足の筋力がついてから動いた方が効率的だな」
そう、彼らはむやみに動かず、状況を分析し、安全確認を怠らない**「頭脳派」であり、「慎重派」**なのです。
この「慎重さ」は、臆病ということではありません。
将来的に、リスクマネジメント能力が高く、場の空気を読み、物事を深く考える賢い子に育つ可能性を秘めています。
「とりあえずやってみて失敗する」タイプではなく、「成功率を高めてから実行する」タイプ。これは立派なリーダーの資質です。
2. 怪我が圧倒的に少ない、親孝行な「危機管理能力」
早く歩き始める「せっかちさん」タイプのママたちの悩みを知っていますか?
それは、「毎日生傷が絶えない」ことです。
頭の重さと足の筋力のバランスが取れていない状態で、好奇心のままに動き出すため、とにかくよく転びます。
テーブルの角におでこをぶつけたり、何もないところで転んで唇を切ったり。ママは一日中ハラハラして目が離せません。
一方、ゆっくりさんはどうでしょうか。
彼らは、自分の足腰が十分に体重を支えられるようになり、バランス感覚が整うまで、決して無理をして立ち上がろうとしません。
そして「満を持して」立ち上がった時には、すでに基礎工事が完了しているため、最初から足取りが安定しています。
「あの子、歩き始めたと思ったら、一度も転ばずにスタスタ歩いたのよ!」という伝説を残すのは、大抵このタイプの子です。
転倒による怪我が少なく、ママの心臓に優しい。
「目が離せない危険な時期」を先延ばしにしてくれている、とても親孝行で賢い子なのです。
3. 運動以外の場所で起きている「見えない進化」
人間の成長エネルギーというのは、ある程度一定量であると言われています。
あちらが伸びれば、こちらは一時停止する。成長とはそういうものです。
「運動(歩くこと)」に全エネルギーを注いでいる子は、言葉が出るのが少し遅かったりします。
逆に、「観察」や「指先」にエネルギーを使っている子は、運動面の発達がゆっくりに見えることがあります。
歩かない分、手先が器用で、細かなシール貼りや積み木が得意ではありませんか?
あるいは、ママの言っている言葉をよく理解し、「ちょうだい」「どうぞ」などのやり取りがスムーズではありませんか?
絵本を集中して読むのが好きではありませんか?
目に見える「歩行」というパラメータが動いていない時は、必ずどこか別の場所、例えば「知能」「手先の巧緻性」「情緒」などが、ものすごいスピードで進化している最中です。
今は「脳のバージョンアップ中なんだな」と捉えて、他の得意な部分を探して褒めてあげてください。
周囲の雑音をシャットアウトする「魔法の切り返し術」
頭では分かっていても、親戚の集まりや公園で「まだ歩かないの?」と言われると、心が揺らぎますよね。
相手に悪気がないのは分かっている。だからこそ、笑って流さなければいけない自分が辛い。
そんな時は、心の中で「あっかんべー」をしつつ、余裕たっぷりの笑顔でこう切り返してあげましょう。
パターン1: 慎重さをアピールしてドヤ顔
「そうなんです〜。この子、すっごく慎重派で、しっかり準備してから動く賢いタイプみたいなんです(ニコッ)」
(心の声訳:臆病なんじゃなくて、思慮深いんです。凄いでしょ?)
パターン2: 専門家の権威を借りる
「こないだの健診でもお医者様に相談したんですけど、『順調です、個性ですね』って太鼓判を押されちゃいました〜。だから安心してるんです」
(心の声訳:素人の心配は無用です。プロが大丈夫って言ってるんで、口出ししないでください)
パターン3: ハイハイのメリットを説く
「ハイハイの期間が長い方が、体幹が鍛えられて足腰が強くなるって聞いたので、今はラッキータイムだと思って見守ってるんです〜」
(心の声訳:ハイハイの重要性をご存知ないんですか? 今はトレーニング中なんです)
一番大切なのは、ママ自身が堂々としていることです。
ママが「ごめんね、まだなの……」と申し訳なさそうな顔をしていると、赤ちゃんは敏感に「自分はダメなことをしているのかな」「ママを悲しませているのかな」と感じ取ってしまいます。
「うちはうち! よそはよそ!」
「今のあなたが最高! ハイハイ姿が世界一可愛い!」
そう胸を張って、赤ちゃんのありのままを肯定してあげてください。ママの自信は、赤ちゃんの自己肯定感に直結します。
本当に心配すべきラインはどこ?「レッドフラグ」を知っておく
「個性だから大丈夫」とお伝えしましたが、それでも「楽観視しすぎて、もし病気が隠れていたら……」という不安はゼロにはならないかもしれません。
不安を解消するために、専門家に相談すべき具体的なサイン(レッドフラグ)を知っておきましょう。
以下の様子が見られる場合は、念のため小児科や専門機関に相談してみてください。
- 1歳6ヶ月を過ぎても、つかまり立ちをしようとしない
- 目線が合わない、名前を呼んでも振り返らない、あやしても笑わない
- 手足の動きに極端な左右差がある(片方の手足ばかり使うなど)
- 体が極端にふにゃふにゃしていて力が入らない、またはガチガチに突っ張って硬い
- 今まで出来ていたことが出来なくなった(退行)
逆に言えば、**「1歳半未満で、つかまり立ちや伝い歩きができ、ママと目線が合い、機嫌よく遊んでいる」**のであれば、歩かないことは99%、ただの個性であり、その子のペースです。
病気や障害ではなく、「今は歩く気分じゃない」だけなのです。
まとめ|チューリップとひまわり、咲く時期は違っていい
春に咲くチューリップと、夏に咲くひまわり。
私たちは、夏になっても咲かないチューリップを心配することはあっても、
「ひまわりさん、どうして春なのに咲かないの? チューリップはもう綺麗に咲いたよ?」と責めたりはしませんよね。
それぞれの花には、それぞれの**「開花時期」**があることを知っているからです。
人間の赤ちゃんも、これと同じです。
その子には、その子だけの体内時計があり、その子だけの「開花時期」がセットされています。
それを外から無理やり早めようとしても、意味がありません。
いつか必ず、嫌でも歩き出す日が来ます。
そして、一度歩き出してしまえば、もう二度と、あの愛らしい、小さなお尻を振って一生懸命進む「ハイハイ姿」を見ることはできなくなります。
「抱っこして」と両手を広げて求めてくる回数も、少しずつ減っていきます。
だから今は、歩かないことを嘆くのではなく、
「まだ赤ちゃんらしい姿を見せてくれているのね、ありがとう」
「たっぷりハイハイして、将来のために体幹を鍛えてね」
と、今の姿を目に焼き付け、ビデオに収めて、存分に可愛がってあげてください。
歩き出すその日は、あなたが思っているより、ずっとすぐに、突然やってきますよ。
その時に「やっと歩いた!」と涙して喜ぶために、今の「待ち時間」があるのかもしれません。
よくある質問(Q&A)
最後に、歩き始めが遅い子を持つママからよく寄せられる質問にお答えします。
Q. ハイハイをせず、座ったままお尻で移動する「いざりばい(シャフリングベビー)」です。大丈夫でしょうか?
A. 珍しいですが、正常な発達のバリエーションの一つです。
ハイハイを飛ばして、お座りのままお尻でズリズリ移動する赤ちゃんを「シャフリングベビー」と呼びます。このタイプの赤ちゃんは、足の裏が床につくのを嫌がることが多く、歩き始めが1歳半〜2歳近くと遅くなる傾向があります。
しかし、これは病気ではなく「移動スタイルの個性」です。最終的には問題なく歩けるようになりますし、運動能力に差が出ることもありません。
実は「パパやママも小さい頃そうだった(遺伝)」というケースも非常に多いです。ユニークで可愛い移動スタイルを楽しんで見守りましょう。
Q. 練習させた方がいいですか?(手押し車や歩行器など)
A. 無理強いはNGです。あくまで「遊び」の中で誘う程度に。
本人がまだやる気になっていないのに、脇を抱えて無理に歩かせようとしたりすると、股関節に負担がかかったり、恐怖心で余計に足を着くのを嫌がるようになったりします。
手押し車や、少し離れたところから大好きなおもちゃで釣るなどは、「遊び」として赤ちゃんが楽しんでいるならOKですが、嫌がって泣くようなら即終了してください。
「練習」ではなく、本人の「歩きたい欲求」が育つのを待つのが一番の近道です。
Q. 靴は早めに買って、家の中で履かせた方がいいですか?
A. 必要ありません。外で5〜10歩しっかり歩けるようになってからで十分です。
「早く靴に慣れさせた方がいい」という説もありますが、歩き始めの時期に大切なのは「足の裏の感覚」です。
裸足で床の感触を確かめ、足の指で地面をグッと掴むことで、バランス感覚や土踏まずが形成されていきます。
つかまり立ちの段階で厚底の靴を履かせると、足裏からの情報が遮断され、逆にバランスが取りにくくなることがあります。家の中では裸足で過ごし、ファーストシューズは外でヨチヨチ歩きが始まってから、お店でシューフィッターさんに計測してもらって買いましょう。焦らなくて大丈夫です。
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